『マニュアル』と聞いて、どんな印象を受けますか?
私がまだ学生の頃、決まり切った仕事しかできない人のことを揶揄して『マニュアル人間』と呼ぶことがあり、私自身「マニュアル」という言葉に拒否反応を示した時期もありました。
今回は、マニュアルの世界の代表である『茶道』から、『経営者の仕事とは何か』について触れていきます。
私は約10年間「古儀茶道藪内流」という流派で茶道を習わせていただいています。
所員時代茶室のある住宅の担当をさせていただいたときに、茶室をつくるときのルールの楽しさや、造作の繊細さ、素材が持つ存在感など、普段の設計では味わえない楽しさから「自分も茶室を設計したい」という思いに駆られました。
独立して知り合いに今の先生を紹介されたことをきっかけに、若干の下心もありつつ、現在まで10年以上習い続けています。
今では「中段修了」のお免状もいただきました。
茶事という催事を一般的に「茶道」と呼んでいます。
「茶事」では進行が徹底してマニュアル化されていて、「茶室」は茶事を行うための舞台装置として建てられたものです。
茶を点てて客をもてなす「茶室」のみでは茶事は成立せず、お茶を準備したり、水を汲んだり道具を洗ったりするための水屋(みずや)も必要です。
さらに言えば、懐石や酒を準備する本格的な茶事を行うことを考えると、台所との関係性も考えながら計画しなければなりません。
余談ではありますが、大まかな茶事の流れとして、
- 待合い(寄付待合・腰掛待合・迎付け・蹲)
- 席入り(席入り・床の間拝見・炉と釜の拝見・あいさつ)
- 初座 (炭点前・香合拝見・懐石・主菓子)
- 中立 (休憩)
- 後座 (席入り・濃茶・薄茶)
- 退席
と決まっています。
亭主(ホスト)だけでなく、客(ゲスト)にも動作や順番などのルールがあります。
日頃は点前を中心に練習させていただきますが、大寄せ(20人~30人程度の席)での茶会に参加させていただいたり、社中(先生の弟子を1単位としたグループ)で本格的な茶事を経験させていただけます。
点前では順番通り進めればよいというのではなく、動作の中でのルールも細かく決められています。
例えば初めに「ご挨拶」してから点前畳にすわるまでの道筋、座ってからの体の向き、お茶入れを動かすタイミングと置く位置、お茶碗を動かすタイミングと置く位置など、始まりから終わりまで細かく決められています。
なぜそんなに細かく決められているのか?
道具を置く位置なんて神経質にならなくても良いのではないかと思ってしまうのですが、今日のお稽古で、細かすぎるマニュアルの意味を痛感しました。
建水と言って、点前で使ったお湯やお水を捨てる桶のような道具があります。
点前座に座ったあと、建水を置く位置を体に近い位置に置いてしまった為、お湯を捨てる動作が行いにくくなってしまいました。
いつものように建水をもっと上へ上げて体から離れた位置に置いていれば、お湯を捨てる動作がズムーズになったはずです。
私が参加している倫理法人会でも『マニュアル』を重視しています。
マニュアルがあれば、新しい人が入ってきても会としてのルールをはっきりと伝えられるからです。
マニュアルを守れば、どんな人が来ても最低限の品質をベネフィットとして提供できるからだと思います。
マニュアルづくり、仕組みづくりこそ経営者の第一の仕事ではないでしょうか?
茶道という文化が現在まで失われることなく継続できている理由が良く分かりました。
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